
皆さんは「ロードキル(Roadkill)」という言葉をご存知でしょうか?
それは道路上で車に轢かれて亡くなった野生動物のことを意味します。
各高速道路会社の調べでは平成28年の高速道路におけるロードキル件数は約5万件にも及びます。
さらに、日本道路公団による平成14年の統計によれば高速道路上でのロードキル数は35,993件で、その約4割の13,842件がタヌキだそうです。一般道でのロードキル件数は定かにはなっていないものの、日本全体で一年間に11万頭から37万頭のタヌキが轢死しているという研究データもあります。
ここでは日本におけるロードキルの現状と、その肉を食べることについて語ります。食への感謝、命の尊さとはいったいなんでしょうか。
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目次
ロードキルはなぜおこる
道路建設が動物たちの生息域を分断した時、多くの動物は自動車の危険性を理解することが出来ません。そして、いつもの通り道であるその道路を横断してしまうことによりロードキルは発生します。
人間の都合で引いた「道路」という線は、野生動物の生活圏の中を通り、餌場や産卵場を知らず知らずのうちに分断している可能性があるのです。
なぜタヌキのロードキルが顕著に多いのか
タヌキのロードキルが飛び抜けて多いのは、郊外に生活する人は経験上知っているでしょうし、動物注意の道路標識に可愛いタヌキの絵が使われていることからも明らかだと思います。
これはタヌキの個体数が多いということもあるのでしょうが、タヌキの行動習性にも起因します。
・タヌキは繁殖期や子別れ時に行動半径が拡大する。
・道路周辺の草地の法面はタヌキの生息域になりやすい。
・道路で事故に遭った動物を食べに近づいてしまう。
これらはタヌキ以外の動物にも見られる特性ですが、さらにタヌキには
・驚くとうずくまってしまう「タヌキ寝入り」
の習性がある為、ロードキルの件数が飛び抜けて多くなっているようです。
夜に餌を求めて歩き回る際、ヘッドライトの光に驚いてタヌキ寝入りしてしまいます。
ロードキル防止対策と現状
ロードキル防止対策として、動物の侵入を防ぐ柵や、道路の下を通れるような横断施設が設置されている箇所もあり、一定の成果をあげているようです。しかし、日本中に張り巡らされた全ての道路にすぐさま対策を施せるわけはないのは当然で、ロードキルは中山間地域においてはもはや日常の風景にまでなってしまっています。
道路を管理する側としても、交通事故の誘発防止や、交通状況の円滑化のためにはロードキル対策は必須でしょう。
人口の現象、少子高齢化、カーシェアの普及で車の利用率は歯止めがかかりそうなものですが、日本の自動車保有台数は増えているそうです。郊外型ショッピングセンターが勢力を振るう地方ではもはや車なしでは一層生活が難しくなっています。
さらには、鹿やイノシシの個体数が増えているわけですから、タヌキなどの小動物も増えていると考えると、本文冒頭の統計の通り、ロードキル件数が増えているのも無理はないでしょう。
彼らの住処となる山林は荒廃してしまっており、人里に出ざるを得なくなっているのも問題です。
ロードキルと生態系保護
ロードキルは生態系保護の観点からも問題となっていますが、どこまでそれが本心なのかは疑わしい所です。
そもそも鹿やイノシシ同様、タヌキも害獣扱いです。そして僕は害獣という言葉が好きではありません。
「溜め糞」と言う、同じ場所に糞をする習性がタヌキにはありますが、それを家の中で行なったり、農作物も荒らしたりするわけですから、今や厄介者扱いです。
一昔前はその上質な毛皮が重宝され、一時は絶滅が危惧されたほどタヌキの個体数は減少したそうですが、もう日本にその需要はありません。
駆除にあたるハンターも減っている中、駆除業者も出てきています。タヌキは狩猟鳥獣だから、勝手に捕まえるというわけにもいかないし、誰もが簡単にも捕まえらるというわけではありません。
ロードキルであればそのまま拾って廃棄するだけだから、目線変われば、ロードキルを良しとしている人たちも大いにいるに違いありません。
ロードキルとジビエ
ジビエブームと肉の廃棄
鹿やイノシシについてはその増え続ける個体を管理する方法としてのジビエ利用が地方自治体でブームになっています。道の駅などの地場産品コーナーを覗くと、鹿肉やイノシシ肉が陳列されているのが珍しくなくなりました。
この状況を見ると、ジビエ肉はさぞ有効利用されているのかと錯覚しそうですが、そんなことはありません。
雑誌『スペクテイター vol.28 OUTSIDE JOURNAL』に掲載されている『ぼくは猟師になった』の千松氏とのインタビューによると、2009年には30万トンの鹿が捕獲され、その内の半分が食用となっている一方、残りの半分は土に埋められるか焼却処分されているそうです。
また、僕が信州にあるロングトレイル「信越トレイル」のテント場でご一緒した若きハンター(30代)の話によると、有害駆除として捕獲された鹿の9割が山で埋められてしまっていると知って狩猟免許を取ろうと決めたとか。
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彼は東京の飲食店に鹿肉を卸していますが、狩猟者はこの40年で6割以上減少し、その総数の65%以上を占める60歳以上のハンターでは、捕獲した鹿を里まで担ぎ下ろす体力はなく、有害駆除報酬の証拠のための尾を持ち帰るのみで残りは捨てて帰るしかないのが現状だそうです。埋めるならまだマシで、そのまま放置されるケースも多いとか。
「もったいない」ですよね。
ではロードキルの廃棄はどうか
これら鹿の廃棄について「もったいない」と思った方、それではロードキルによって死んだ動物が焼却処分されていることについては同様に「もったいない」と思いますでしょうか?おそらく大半の方が、そうは思わないのではないでしょうか?
可愛そう、でも汚い、怖い。そもそも食べて安全なのか。
このような考えが普通ではないでしょうか?
ロードキルでも鹿やイノシシならその美味しさを知っている人が多く「もったいない」と思う人はいるかもしれませんが、それがその他の動物のロードキルの場合は全く別問題でしょう。
それに丁寧に処理されれば全くそんなことはないものの、鹿やイノシシでさえジビエ肉は臭いというイメージを持っている人がいまだ多い中、それ以外の動物を食べることなんて想像もつかないのではと思います。
さて、命とはなんでしょう。
食品廃棄大国日本
突然ですが日本で年間に廃棄される食品の量はご存知でしょうか?
環境省及び農林水産省が平成26年度に発表した統計によると、事業者と一般家庭を合わせて約2,775万トン。うち食べられるのに捨てられている(可食部分)食品ロスは約621万トンに達します。
可食部分とは事業者では規格外品、返品、売れ残り、食べ残し、
一般家庭においては食べ残し、過剰除去、直接廃棄が該当します。
食品廃棄物の多くが飼料や肥料、エネルギーとして再生利用されている一方、約1,101万トンが焼却・埋め立て処分されているそうです。
ご飯は一粒残らず食べましょうとか、
食べ物に感謝しましょうとか、
命を大切にしましょう
などと言っている裏側で、
これだけの命を無駄にしているのが今の日本の現状です。
命の尊さなんて軽々しく語ってはいけません。
ロードキルを食べるということ
話は戻って、ロードキル。
一般的に普及している食べ物の廃棄と、害獣駆除の肉の廃棄、そしてロードキルの肉の廃棄を一緒にするなという意見が一般的なのでしょうが、僕には一緒にしか思えません。
食べ物として一般的か否か、うまいかまずいかなどはは問題ではなく、どれもこれも平等な命であることには変わりません。
いや、平等な命であるとは皆、頭ではわかっているはずです。あくまで概念としては。
しかし世界はまだまだ広いです。実は世の中にはロードキルを食べている人がいます。驚くなかれそれは日本にもいるのです。
地面に落ちた食べ物は問答無用に捨ててしまう人もいますが、僕は汚れてなければそのまま食べるし、汚れていてもその箇所を取り除くか洗えばすれば良いと思っています。
ロードキルの肉もそれと同じようなものと言えないでしょうか?
今まで僕が遭遇した数件のロードキルは仕事中や、待ち合わせのため拾える状況ではなかったし、20代前半まで東京23区にいた時はロードキルといえば猫でした。しかし、ロードキルを食べる人たちがいると知って、僕も次こそは拾えるようにしておこうと覚悟を決めたのと丁度時を同じぐして、ロードキルのイノシシを食べる機会に恵まれました。
ロードキルは内臓が破裂していたり、死んでから時間が経っていたりすることから、肉にした時に匂いがキツイ可能性が高い。しかし臭みを抑える調理を施せば、それはご馳走に一変します(匂いのある肉が苦手な人には、それでも食べにくいようですが)。
ゴミがご馳走になる。ゴミとはなんでしょう。
そしてロードキル(?)との出会い
ロードキルを発見したら拾おうと覚悟を決めたからといって、ロードキルに出会いたいわけではありません。野生動物には車に轢かれることなく幸せに暮らしてほしい。彼らの死を願うなんて嫌です。
それに夜間に発生することが多いロードキルは、夜、または早朝に発見されることが多く、その時間帯に車を走らせないと遭遇しないわけですが、今のところそう言ったライフスタイルではありませんでした。
そんなある日、午前中の用事を済ませ、昼前くらいに帰宅。そして車からおりたその時、何かに惹きつけられるように向けた目線の先に一匹のタヌキが死んでいました。
どうもそれはロードキルではなさそう。
近くにトンビがいたから彼の仕業でしょうか?
作業用の服を着て、手袋をはめ、ナイフを片手に僕はタヌキを解体し始めました。初めての解体、この日のためにインターネットやyoutubeで解体方法を自習していました。
タヌキの体にナイフを入れ、その臓器や筋肉、骨を見ているとあまりの「綺麗さ」「美しさ」に時折心を奪われます。
浄も不浄も、食品もゴミも、生も死もそこにはなく
あるのはただ命だけでした。
そして僕はその命を頂きました。
(続く)
参考資料
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ijikanri/pdf/h28rakkabutu_nexco.pdf
動物の生息地の分断対策(国土技術政策総合研究所)
https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0393_0395pdf/ks039304.pdf
ロードキル動物の屍体から得られる情報の記録と保存
https://www.eec.miyakyo-u.ac.jp/blog/data/kiyou18/09.pdf
我が国の食品ロス・食品廃棄物等の利用状況等(平成26年度推計)の公表について
https://www.env.go.jp/press/103939.html
平成26年度鳥獣統計情報
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs2/h26/06h26tou.html
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