たぬき汁とたぬきの八角煮(レシピあり)

以前、たぬきのロードキルとその肉を食べることについての記事をアップして、たぬきを拾って解体し始めるところまでをご紹介しましたが、その後そのたぬきは八角煮にすることで臭みを抑え、かつ美味しく頂くことができました。食べた人はみんな美味しいと言ったので、確かに美味しいのだと思います。

飛び抜けて多いタヌキのロードキルとその肉を食べるということ。そして命の尊さを考える。

そのレシピ(といってもかなり適当で目分量)をご紹介する前に、ちょっと脱線したいと思うのですが、そもそもたぬきの肉を食べるということは珍しいことだったのでしょうか?

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かちかち山

絵本や日本昔話にもなっている『かちかち山』のストーリーを思い出してみてください。

とある老夫婦の畑に出没しては作物を荒らすなどして悪さをするたぬきを、おじいさんは罠を使って捕獲します。

おじいさんはおばあさんにそのたぬきを狸汁にするように言い残して畑に向かいますが、たぬきは「もう悪さはしない」とおばあさんを騙して自由になっては、おばあさんを殺して「婆汁」にしてしまいます。

当のたぬきはおばあさんに化けて、帰ってきたおじいさんに狸汁だと騙して婆汁を食べさせては、山へ逃げ出します。

おじいさんはそのたぬきを成敗するためにウサギに相談して、仇を討つことに。

ウサギは山でたぬきの背中に火打石で火をつけたり(これがかちかち山の由来)、そのやけどの薬にと唐辛子味噌を渡したりした挙句、漁に誘って泥舟に載せることでたぬきを溺死させる。

かくしてウサギはおばあさんの仇を見事に討ちます。

たぬきを食べることはかつては当たり前だった?

悪さをしたものが成敗されるというストーリーと、カニバリズムを想起させる強烈な描写に焦点が行ってしまいがちではありますが、おじいさんが捕まえたたぬきを当たり前のように汁物にして食べようとしていることも、現代の私たちにとっては衝撃でしょう。

実はカチカチ山のストーリーは平安時代にはすでに現在の形として流布しており、たぬき汁はとても古くから食べられていました。

しかしたぬき汁とは呼んでも実際はニホンアナグマの汁と言われており、たぬきを食べていたのは悪食をしない冬季に捕獲されたものを食べていたとも言われています。

11月から4月の間は一般的にニホンアナグマは冬眠しているので、その間の代わりとしてたぬきを食べていたのかもしれません。しかし「ムジナ」という言葉がある地域ではアナグマを指したり、別の地域ではたぬきを指したりと明確な区別がされていないので、たぬきがどの程度食べられていたのかは、文献から推察するのもなかなか難しい。

何しろニホンアナグマが美味しいと言われる一方、たぬきは臭い。

ニホンアナグマはネコ目イタチ科アナグマ属なのに対し、たぬきはネコ目イヌ科タヌキ属と、見た目は似ていますが科が違う。狸寝入りや溜め糞などの修正は似ているものの、まさに似て非なる動物と言えます。

無論、現代の飽食時代が到来するまでは食べ物に限りがあり、選り好みができる状況ではなかったわけですから、アナグマだろうがたぬきだろうが、それが美味しいか不味いかに関わらず食べていたことでしょう。

それに「捕らぬ狸の皮算用」と言うことわざがある位にたぬきの毛皮は珍重されていたわけですから、少なくともその肉はなんらかの形で処理していたはずですし、早い話が食べていたと思うのです。

たぬきの肉は山羊より臭い

しかし、それを差し引いてもたぬきの肉はかなり臭い部類に入ります。少なくとも僕が食べたたぬきは確かに臭みが強かったし、ネット上でもその臭さ(と不味さ)が話題となっています。

その一方で、美味しいと言う意見もあり、これはどんな餌を食べていたか、どんな時期に捕獲されたか、そしてどのように処理されたかが大きく影響するのはもちろんのこと、

どのように調理されたか、また、その肉を食べた人が、臭い肉が好きか否かもとても重要なポイントだと思います。

沖縄の祝い事でふるまわれるヤギ汁(ヒージャー汁)は、もはや沖縄の若い人には臭いからと嫌われますし、ヤギよりもだいぶマイルドな羊肉だって苦手な人には食べられないし、無論魚介類をその生臭さゆえに食べられない人もいます。

僕はヤギ肉を筆頭に臭みの強い食べ物が好きですが、それでも(僕が拾ってきて処理した)たぬきの肉は今まで食べた肉の中では一番臭みが強かったです。

しかしまずいとは一言も言ってません。

それに、調理の仕方によっては普段は匂いに敏感な人でも美味しく食べられるのです。

佐藤垢石の『たぬき汁』

エッセイストの佐藤垢石(さとうこうせき)が1940年にその名も「たぬき汁」と言う随筆を書いておりますが、その中で代用食としてのたぬきの可能性を模索したたぬき料理の食事会が開かれています。調理に当たったのは一流の料理人、試食に集まったのは食通と東京の料理人たち。

そこで出てきた料理を引用させてもらいます。

肉団子

第一に出たのが肉だんごだ。これは狸肉を細かく挽いてだんごに丸め、胡椒と調味料を入れて軽く焼いたのであるそうだ。なかなかいける。臭みがない。

肉炒め

次は、肉を刻み油でいため、蕃荷菜(ハッカ)をかけたものだ。これも、乙である。

ステーキとカツ

その次は、テキである。これは硬くて歯が徹らなかった。

カツも出たが、カツも同様だ。

スープ

さらに、清羮(せいこう=スープ)に種とし、人参、大根、青豆などを加役とした椀が運ばれた。しかしこれは随分手数が掛かったものであろうが、あまり臭いので敬遠せざるを得なかった。

しゃぶしゃぶ

その次は、肉片をいったん湯であおり、これにマヨネーズと酢をかけ、それに蕃菜(つるな)の葉と馬鈴薯とをあしらえ、掻きまわしたものが出たけれど、これにも臭みがついている上に、肉が甚だ硬かった。

たぬき汁(味噌汁)

最後に膳の上にのったのが、味噌汁である。八丁味噌に充分調味を加え、狸肉を賽の目に切って泳がせたのであった。これは結構であった(中略)軽く山兎に似た土の匂いが肉にかおり、それが一種の風味となって私の食欲を刺戟した。

佐藤垢石の口に最もあったのは肉団子、次にたぬき汁だったようですが、このように美味しく食する事ができたのはひとえに料理人の力であるとも言っています。たぬきの肉を素人が調理したら手がつけられないと。果たしてそうなのでしょうか。

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実際に調理してみて

焼肉

とりあえず手始めにと調理したのは(してもらったのは)焼肉です。臭みとりのために多めのニンニクを使用しましたがこれがなかなか美味い。味は山羊肉に似て、山羊よりも臭い。すなわち羊肉よりは大分臭い。しかしこれは臭いといっても、好きな人には良い臭みです。山羊肉は臭いほど美味いと思っている人には感動ものです。

一方、肉は火が通ると非常に固くなります。ステーキやカツなんかにしようものなら確かに固くて食べられないでしょう。佐藤垢石が絶賛したような肉団子やハンバーグのようにミンチにすると食べやすいのでしょう。焼肉にするときも薄く切った方がウケが良いはず。しかし固い肉の塊をガシガシ食べるのもまた乙だとは思うのですが。

たぬき汁

次こそはたぬき汁だと意気込んで、水を入れた鍋にたぬきの肉を入れて煮立ててみると、これは臭い。あまり良い臭さではない。家についた臭いが取れなくなってしまうのではと心配するほどの臭さ。

佐藤垢石もスープや狸肉を湯がいた料理は臭いと評していますが、なるほど、たぬきを茹でるとこうも臭くなるのかと驚きます。肉を焼いたときの臭いとは質が違うのです。

これは最初からニンニクやショウガなどをふんだんに効かせて、かつ味噌でしっかり濃いめに味付けて、野菜をこれでもかと入れて出汁を出してやればよかったのかもしれませんが、そこまでした挙句に臭くて食べられないとなっては勿体無い。その位の質の匂いでした。

と言うことで、このたぬきは僕にとっての一匹目だったと言うこともあってたぬき汁は早々に諦めて、濃い味付けの佃煮のようなものにすることにしました。

たぬきの八角煮

目の前にはたぬきの肉が湯の中でグラグラと煮立っている。匂いは強い。たぬきの足が2本、重量にしておそらく400〜500gくらいでしょうか。

そこに醤油をドバドバと鍋に2周ほど、そして酒を1周回し入れる。

さらにスライスしたショウガとニンニクを放り込む。

この時点でまだ匂いが収まらない。

煮込んでいったら収まる、と言う保証があるわけでは無いので、八角を入れて見るとこれはすごい。

八角の独特の香りがたぬきのきつい匂い見事に包み込んで、その臭みが物の見事に何処かに行ってしまいました。

汁気がしっかり飛んで味が染みたところで試食して見ると、口に残る臭みもなく非常に美味。匂いに敏感な人に食べさせても、美味しいという評価。

なるほど、臭い肉には八角を入れれば万人受けする料理に仕上げられると言う仮説を残して(まだデータとしては一回目)、今回のレシピをご紹介。基本的には目分量。良い塩梅に味付けしてもらえれば結構だと思います。

たぬきの八角煮
・たぬきの脚 2本(4~500g)
・醤油 鍋に2周回し入れる
・酒 鍋に1周回し入れる
・水 醤油、酒と合わせてたぬきの肉が浸るくらい
・八角 丸ごと一個

冷蔵庫に保存しておくとたぬきの匂いが顔を出し始めるので、早めに食べきることをお勧めしますが、その匂いも決して嫌な匂いではなく、そう言うのが好きな人には好きな匂いです。

因みにたぬきの肉は脂がすごい。肉と毛皮の間に分厚い皮下脂肪が潜んでいるのです。そしてその脂が全くしつこくなく、さらっとしています。これはジビエ一般に言えることですが、やはり野生動物の油は上質なんです。畜産の肉でこんなに上質は油は食べられません。

中国とたぬき肉

薬膳としてのたぬき

中国には『本草綱目』と言う薬学書があって、そこにたぬきの食肉としての効能が記載されています。本草綱目は国会図書館のアーカイブでも全文読めるものの、原文のみ。私は残念ながら中国語が読めないのですが、ありがたいことにwikipediaのたぬきの頁にたぬきがどのように紹介されているか書いてありました。

たぬきは薬膳の一つとして現在も食べられておるようですが、本草綱目によるとたぬきの肉は

体を温め、食べても害がなく、また、強壮効果のある生薬

であるとされています。

これはたぬきを食べた人なら分かるのですが、たぬきの肉を一切れ食べるだけで、体の中からぐーっと熱くなっていくのがわかります。食べ過ぎたら夜眠れなくなるのでは。そう言う感覚をひしひしと感じるのです。

これは野生の肉だからと言うだけでは説明がつきません。僕が経験した限りにおいてはイノシシでも鹿でも熊でもヘビでも(他に何かあったかな?)たぬきの肉を食べた時のような感覚は得られませんでした。あるとしたら行者ニンニクを大量に食べすぎた時でしょうか。

中国でのたぬき肉の処理法

前述したwikipediaの記述が大変参考になるのですが、中国におけるたぬき肉(そしてヤギ肉や犬肉など臭みのある肉)の処理方法は以下のようだそうです。

長時間水につけて血抜きをすること、ニンニク、ネギ、トウシキミ(八角)、クミン、唐辛子、醤などを使って臭みを隠すこと、煮込んで柔らかくすること、熱いまま食べるのではなく、冷菜として食べることがこつであるとされる

なるほどここで八角が登場しました。僕が八角を入れてみたのは思いつき以外の何者でもなかったのですが、中国4000年の歴史がすでに八角とたぬきの相性を証明していたようです。

肉は前述した通り硬いので、柔らかくなるまで煮込むのが良いのも納得。しかし熱いままの方が美味しいと僕は思いました。

あとがき

この記事に最初から嫌悪感を感じた人はここまで読んでくれていないでしょうし、ここまで読み進めてくれた方はそれなりにこのような話題に興味があると思うのですが、僕はたぬきを食べると言う話題を突飛なものとしたいわけでは決してありません。

むしろ日本においてたぬきを食べていない時代というのは近現代においてくらいなのではと考えると、僕たちが普段見ている日常の風景や、普通と言われるものがいかに脆いものかが良くわかります。

現在の日本はまさに食べ物の溢れる飽食時代でありますが、その「食」が随分といびつな形で溢れています。

遺伝子組み換え、農薬、F1の野菜、抗生物質、食品添加物、人工甘味料に人工的な油。。。

なるほど、食べ物は工業化しています。

そのように考えるともはや飽食と思わされているのが現実で、本物の食べ物は何処へやらという状況なのではないでしょうか?世界の人口は急速に増えており、その食糧危機を乗り越える方法が見えているとは思えない中、食べ物はより本物から離れていくのではないかとも思えます。

少なくとも僕が考える解決法としては、皆が慎ましく生きることではあるのですが、それが可能とも思えない。世界は貪っています。

しかし世界が貪っているのも無理はないのかもしれません。食べ物が工業的になるほど、人間の生活そのものが工業化されていくものなのかもしれません。もはや点滴で暮らしているのと何が違うのかという有様だと言っても言い過ぎでしょうか?食料が「エサ化」している。

それでは食事とはなんでしょうか?

美味しいものを食べることなのか、
その「美味しい」に中毒性があるべきものなのか、
喜びや快楽のためのものなのか、
生きるためにするものなのか、
ただの生の循環なのか、
命を殺してそれを命とすることなのか、
感謝なのか、

少なくとも食材となる命が、命として大きく躍動している程にそれはこの上なく美味しいし、そんな命を食べることは僕にとって大いなる喜びであります。

そしてそんな食事は自然と感謝の念を湧き起こすものだと思うという個人的な感想をもってこの文章を締めくくりたいと思います。

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百姓2.0/自給リスト(自足に限らず);野菜、米、塩、味噌、建築、トイレ、経済、国家、獣肉(拾い物)、書籍、映像、音楽 etc /自著『旅をふりかえる旅』https://amzn.to/2Wb1mNs、『下らない生き方』https://amzn.to/2ZEjgKf /
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