
新型コロナウイルスの影響でアメリカでもロックダウンが始まってきた4月の頭にこんなニュースが目に入った、
トイレットペーパー同様の買い占めが起きたということだが、その動機が余暇が増えたことによってペットとしてのヒヨコ需要が喚起されたからなのか、卵を自給する目的なのか、はたまたその両方なのかはわからない。ただ、僕はこのニュースを見たときに、卵からヒヨコを孵化させることを思いついた。卵とゆくゆくは肉の自給のために。
ヒヨコを孵化させるためには、適切な温度管理の下、定期的に卵をひっくり返さないといけないことは知っていた。調べてみると6時間に一回転卵しないといけないらしい。しかも孵化するまでの21日間毎日である。湿度の管理も必要だそうだ。
amazonなどのショップサイトをみるとこれらの作業を自動でやってくれる孵化機が5000円程度で売っていたので、ひとまずこれを買ってみることにした(出品者によって値段にかなりの開きがある)。
出品は中国からで、配送までに2週間かかるという。仕方がない。そして待つこと2週間。来ない。そして1ヶ月、来ないので販売元に連絡。どうもパンデミックの影響で、税関かなんかで止まってしまっているらしい。信じて待つ。2ヶ月後、海外配送の商品は来ないこともあるようで、やっぱり騙されたかと思い始めた頃に、いきなり届いた。疑ってしまって申し訳ありませんでした。
有精卵を買ってくる
有精卵と無精卵
ヒヨコを孵すには有精卵が必要だ。ニワトリはメスだけの環境でも卵を産む。その種無し卵が無精卵で、一般的に売られているものだ。種がなくても卵を産むのは、ニワトリの産卵は排卵だから。
ヒトの排卵周期が約一ヶ月なのに対し、ニワトリは約一日。だからオスなしでも毎日卵を産む。
有精卵と平飼い卵
有精卵となるとどこでも売っているというわけではない。こだわり派のお店なら置いているかもしれない。通販なら確実だ。最初はよくわからなかったので、平飼いと称して売られている卵も孵化機に入れて試してみたが、当然ヒヨコは孵らなかった。
というのも、有精卵として販売されているものでも、メス100羽に対してオス5羽の飼育環境と記載されていたので、平飼いで、餌などにもこだわっている養鶏場ならオスも少しくらいは混ざってるんじゃないかと勝手に期待したのだ。そしてそれは勝手な期待だった。
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孵化機で抱卵開始
孵化1回目
というわけで最初に孵化機に入れた有精卵は島根県雲南市の「たなべのたまご」。平飼い有精卵をうたい、餌には自社の山で採った腐葉土や、宍道湖のしじみ殻、大根島の高麗人参を配合しているこだわりの卵だ。価格は6個入りで500円ちょっと。ままたまごというブランド名でプリンやバームクーヘンを販売したり、出雲や松江に路面店も持っている。オスメスの比率は前述の通り5:100。電話で確認したところ品種はボリスブラウン。
孵化機には12個の卵が入るが、初回はただの平飼い卵を6個入れてしまったので、有精卵は6個のみ。
1回目結果発表
スーパーの卵で本当にヒヨコが孵るのかの疑いながらのスタートだったが、結果としては見事成功。目安である21日から遅れること1日の22日目での誕生だ。
無事有精卵6個中の2個から2羽の元気なヒヨコが生まれた。初回の孵化率は1/3。果たして大成功と言えるのかは不明。
残りの4個の卵は成長途中で死んでしまった。そのうちの一つについては、23日目にも卵の中でピヨピヨと鳴いていたが、体が強くなかったのだろう途中で力尽きてしまった。
殻を破るのを手伝ったとしても、先天的に体が弱かったりですぐに死んでしまったり、病気を持っていて他のヒヨコに移したりする可能性もあるようだから、ここは非情にならねばならない。
この辺の孵化失敗の原因については後述する。
ちなみにただの平飼い卵は当たり前だが、何にもならなかった。割ってもただの生卵が出てきた。
孵化2回目
2回目の孵化には用事があって岡山県北部に出掛けに行った時に、真庭市の道の駅で10個300円ほどの超格安な有精卵が売られていたものを試し
てみることにした。飼育環境や餌については不明。品種はまたしてもポリスブラウン。
2回目結果発表
結果は12個中3個の卵が孵化した。孵化率1/4。初回より成功率が落ちた。これは僕の孵化機の管理が悪かったのか、元々卵の質が高くなかったのか。
すなわち原因が避けられるものだったのか、避けられないものだったのかということだが、卵を他所から買う以上は避けられない問題もたくさんあることは後述する。
ちなみに産まれたヒヨコの1匹は黒かった。
ボリスブラウンとは
さて、このボリスブラウンという品種について軽く調べてみた。
赤玉鶏の王者というキャッチコピーを有するアメリカ・ハイライン社生まれの品種改良ニワトリだそうである。寒さに強く、多産であるため、広く飼育されている。少なくとも僕の住まいの近郊でナチュラル思考な養鶏をしている人たちはみなボリスブラウンであった。卵の殻が赤いというのも、スーパーの安い卵と差別化するのに良いのだろう。
卵を産むことが使命なので、卵を温める抱卵の本能が失われているらしい。というのは、抱卵をしてしまうと、卵を産まなくなってしまうからだ。ゆくゆくは勝手に交尾して増えていって欲しいと思っていたが、そうはいかないようだ。チャボなどは抱卵の本能を備えているらしい。ただ、ボリスブラウンなどでも、平飼いで悠々自適な環境で暮らせれば、抱卵することもあるらしい。
ボリスブラウンはロードアイランドを親としたF1(一代交配種)の雑種であり、両親の優良な形質を一代に限って引き継ぐように改良された種である。二代目以降は劣勢の形質が現れてくるため、一代目が持っていた特質を備えているとは限らない。
これは野菜の種でも同様で、例えばF1の野菜は流通しやすくするため、形が真っ直ぐだったり、皮が丈夫だったり、病気に強いように改良されている。
まあ、そんなこともあり黒いヒヨコが生まれることもあるのだろう。ちなみにポリスブラウンのオスは白で、メスは茶色なのだそうだが、ボリスブラウン同士の子孫だとメスが白かったりオスが茶色かったりもするらしい。
抱卵(孵化機の使用)する
購入した孵化機の付属している説明書に孵化にあたっての手引きが事細かに書いてあるので、参考にさせていただいた。というかそれを訳したものに、個人的な経験上の解説を時々加えるという体裁をとっている。(少し微妙なところのある英語で書かれているから、たまに不安な部分もあるが)
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- 孵化機で卵を温めることも抱卵と呼ぼう。それにあたって有精卵は産卵後4〜7日以内が良い。実際にニワトリが卵を温める場合も、複数個卵が集まるまで孵化作業を開始しない(産むそばから人間が食べてしまえば、ニワトリが卵を温めることはない)。
- 卵を保存しておく最適な温度は10~16度。冷蔵庫に入れてはいけない。スーパーなどで卵を買う場合は売り場の環境もチェック。流石に卵を10度以下まで冷やすスーパーはないと思うが、道の駅などでは16を超えることはありえる。
- 有精卵の殻を覆っている粉っぽい物質は取り除いてはいけない。
- 卵の表面にシミや割れがあったり、変形しているものは避けたほうがいい。
- 卵の除菌はさほど気にかけなくてもいい。不適切な除菌は孵化率を下げる。卵の表面に汚れがないか注意するくらいで良い。
- 卵を孵化機に入れるときは、尖っている方を下に向ける。
- 抱卵開始後は孵化機に水を入れて適切な湿度を保つ。この孵化機では下部に5列の溝があって、最初の1週間は真ん中のみ、2週間目は3列、3週間目は全ての列に水を入れるようになっている。最初の18日の湿度は55%、最後の3日は65%が理想。
説明書より
- 卵の成長具合は光を当てることでチェックできるが、抱卵の最初の4日は孵化機と卵の表面の温度が急降下するのを避けるためにも、控える。5日ごろから卵の中に影と血管がはっきりと浮かび出し、
最終的には光を通さなくなる。僕は水をチェックする度に、スマホの懐中電灯を当てて、いくつかの卵の状態をチェックするようにしていた。説明書より
- 卵が孵化するまでの21日のうち、最初の18日間は最低一日三回転卵をする。(機械が自動でやってくれる)そして最後の3日は止める。
この情報が説明書の奥地にあったからずっと21日間ずっと転卵してしまっていた。それでもヒヨコは産まれたが、最後の3日間は転卵しないことで、ヒヨコが卵の中で体勢を整える時間を与えられるようだ。
有精卵の卵選びと扱い
孵化機に入れてからが勝負ではないどころか、むしろその前に大方の結果は決まっているのかもしれない。卵を他所から買ってくる場合はどうにもならないことが多いが、少なくともどんな養鶏場から買うべきかの指針になると思う。
この章もほとんど孵化機付属の説明書からの訳出と追加の解説である。
卵と孵化機の衛生
卵が不衛生だと抱卵開始から10日以内で死んでしまうかもしれないらしい。除菌にこだわるなと前述しているが、汚すぎてもよくないということだろう。卵とフンの出口は最終的に同じだし、鶏舎の環境によっては卵が汚れてしまうだろうことは考えられる。
汚れた卵は病気を媒介するかもしれないようで、それを孵化機の高温多湿のなかに入れることで、蔓延してしまう可能性もある。汚れた卵は45度前後のぬるま湯で洗って,乾いた布で拭くと良いそうだ。そのとき湯に殺菌剤を入れるべきとも書いてあって、矛盾が感じられるが、生き物はデリケートということだろうか。
その時、4分以上ぬるま湯につけると孵化に影響するから注意。また、冷水だと殻を通してバクテリアが侵入する可能性があるらしい。
まあ、販売されている卵にそんな汚れたものはないから心配はなさそう。
健康な群れの卵がいい
サルモネラ菌など鳥の病気に感染した群れから生まれた卵もまた感染している可能性がある。感染した卵は孵化しないかもしれないし、抱卵の途中で死んでしまうかもしれない。もし無事に生まれたとしても、健康なヒヨコに病気を移してしまうかもしれない。
スーパーなどで買ってきた卵の場合は、群れの情報まではわからないから、少し多めに卵を買って、形のいいものや、傷のないものなどを選んで孵化機に入れるくらいしか対策のしようがないかもしれない。
産卵する鶏たちの健康状態
卵にはヒヨコが孵化するまでに必要な栄養素が十分に詰まっている。足りないものは酸素だけで、それは卵の殻の微細な穴から取り込まれる。
ニワトリたちの栄養状態が悪くても、問題なく卵を産むかもしれないが、その卵が有精卵として孵化率が高いかというと、そいういうわけでないようだ。健康な有精卵を産んでもらうためには6〜8週間前からビタミンやミネラルに富んだ食事を与える必要があるという。
孵化挑戦2回目の卵の孵化率が低かった理由もこの辺にあるのかもしれない。安かったし、食事内容の記載もなかったから。孵化まで3週間も見守るのだから、高くても品質重視が良いだろう。
特に注意すべき栄養不足は以下の通り。養鶏にあたっての餌やりでは気を付けたいポイント
- リボフラビン(ビタミンB2)- 不足すると胎児の段階で生育不良になり、孵化率が著しく落ちる。
- パントテン酸 – 不足するとラスト2、3日という最後の最後で死んでしまう。
- ビオチン、コリン、マンガン – 不足すると胎児の以上な成長を引き起こし、膝関節が肥大してしまう。
- ビタミンB12 – 不足すると孵化率を下げ、孵化しても生存率が下がる。
この文脈で言えば、高い確率で卵を孵したければ、スーパーの有精卵(孵化を目的としていない)ではなく、種卵(孵化を目的としている)を選ぶべきなのだろう。
また、高い生産性を望むなら、ヒヨコは最安で1羽200円くらいから販売しているようで、通信販売も可能である。一般的には1羽1000円くらいのようだ。中でもボリスブラウンは安い。養鶏を生業にしているところは、ヒヨコを買うのが一般的のはず。
一個100円弱の有精卵が孵化しないかもしれないのにヒヨコが200円で、しかも卵を産む日齢のボリスブラウンのニワトリでも2000円で買えるようだ。商業的な目線で言ったら、卵から孵化させる選択肢はない。
しかしそこにロマンがあるかというと別の話。
ニワトリの年齢
オスのニワトリの年齢が高くなると、交尾の効率が下がる。また、年齢と共にメスのニワトリの卵の生産は落ち込み、孵化率も落ちる。まあ、当たり前だろう。ちなみに、1回目と2回目の産卵シーズンが最も生産性が高いようだ。
卵の選択
サイズ、形、表面の質感が重要な要素である。重量に関してはある特定の種のニワトリが産む平均のものがベストなようだ。
サイズも形も遺伝するから、小さすぎるものや歪なものを孵化の選択肢から外すことで、今後の卵の品質を高めることが可能。卵が小さすぎたり大きすぎたりすると、孵化機に入れづらいという問題もある。
表面の質感は遺伝しないが、殻が弱いものはヒビの原因になり、バクテリアの侵入を許したり、卵の中の水分がかどの失われる原因になってしまう。わずかなヒビは肉眼には見えづらいが、強い光を当てると可視化することができる。
僕もしっかりチェックしたつもりが、2回目の孵化の時に孵化機の中で割れてしまい黄身が漏れ出してしまったものがあった。孵化機が転卵する際に、
壁面や隣の卵と擦れたりぶつかったりもするので、殻の丈夫な卵を使いたい。2回目のヒヨコが病気にならなければ良いのだが。
ひな鶏の卵
ニワトリが卵を産むようになるまでに大体145日ほどかかるらしい。大体5ヶ月。孵化機に入れてから約半年である。ヒヨコを孵そうと思ったら、少なくとも12ヶ月たったニワトリの卵が良いようだ。
若い雌鳥の卵はサイズが小さい分、ヒヨコも小さく、ニワトリになっても小さくなってしまい、再び小さい卵を産む。
有精卵の保存
20度以上の環境におかれると胚の発達が進んでしまうので注意。ベストは10~15度。湿度が70%を下回ると卵の水分が下がりすぎてしまう。
また、温度や湿度が変化する環境に保存すると、抱卵状態に出たり入ったりという状態になってしまい、孵化率が落ちる。
近親交配
度重なる近親交配は遺伝子異常を引き起こしたり、抱卵時に死んでしまったりする。←まーそうだよなー。
温度管理
メスのニワトリの体温は40.5度から41.7度くらい。抱卵時の卵の理想的な温度は37.8度くらい。ニワトリが抱卵しているとき、卵の上部は39.2度から39.4度くらいに達し、中心部は37.8度になる。
孵化機の理想的な温度設定は37.5度ほど。孵化機では中で熱気が循環しているから、卵の温度も孵化機の温度と同等になる。39.4度を超えると卵にとっては致命的となる。
卵が成長するにあたって熱を発散するが、抱卵の最後の2日ともなると卵の温度は孵化機の設定温度より最大2度上昇する。したがって、その段階で孵化機の温度を最大1度下げたほうが良い。
こんなトラブルが起きたら
卵が全く成長しない。無精卵である。
- オスメスの飼育比率が悪い
- オスの栄養状態が悪い(メスが食べ尽くしている可能性があるから、餌を分けるようにする)
- 交尾が別のオスに干渉されている(他所で育ったニワトリ同士は喧嘩するみたいだから、繁殖のためのオスは一緒に育てる)
- オスのトサカやあごの肉に傷がある
- オスが老いすぎてる
- オスが去勢されてる
- 卵が不適切な環境下に長くおかれすぎている。
卵を買う場合は避けられない条件が多い。逆にいうと、どんなに適切な処置をとっても孵化しない卵があるということである。
最後の最後で死んでしまう卵もあるのは度々述べているが、孵化に挑戦する際はその辺の覚悟もしておこう。何しろあなたがその処理をしなければならない。
光を当てると血の輪っかが見える
卵の胚が最初期の段階で死んでしまうと見られる。僕が挑戦した1回目と2回目の孵化の両方でこの現象が見られた。
- 温度が高すぎる
- 正しく燻蒸(殺菌)が行われていない
- 卵が不適切な環境下に長くおかれすぎている。
孵化率が悪い
- 温度が高すぎる
- 転卵がうまくできていない
- 10日から14日の間に多くが死んでしまうようなら、親の栄養状態が悪い
- 機械の換気が悪い
- 感染病
殻を少し破ったけど死んでしまう
- 湿度が適切でない
- 最初期のステージで湿度が高すぎる
- 親の栄養状態が悪い
産まれるのが早すぎる
- 温度が高い
産まれるのが遅すぎる
- 温度が低い
産まれたヒヨコがネバすぎる(sticky chicks:訳があっているか不明)
- おそらく温度が高すぎる
ヒヨコが奇形
- 温度が高すぎるか低すぎる
- 卵が正しくセットされてないか、転卵がうまくいってない
ヒヨコの足が曲がってる(spradle leg)
- 孵化の場所の路面がツルツルすぎる
ヒヨコの生育環境の路面がツルツルすぎると後天的にも発生するので、産まれたら孵化機からすぐに出してやったほうがいい。テープなどで足を矯正するなどして直してやらないと、うまく育たなかったり死んでしまったりする。
ヒヨコが貧弱
- 温度が高すぎる
- 卵が最初から小さい
ヒヨコが小さい
- 湿度が低い
ヒヨコの息が荒い
- 湿度が高い
- 感染症の可能性
- 抱卵時の平均温度が低い
へその感染病(Omphalitis)
- 換気ができてない
ヒヨコが均等なタイミングで産まれない
- 孵化機に入れた卵の産まれてからの日数やサイズが違いすぎる
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